イタリアの後期モダン・ヴァイオリン - 歴史・特徴・選び方・値段(販売価格相場)

モダン時代におけるイタリアのマスター・ヴァイオリン(およびヴィオラ、チェロ)を慣習的にモダン・イタリアン(またはモダン・イタリーなど)と呼びますが、ここでは特に20世紀前半頃に製作されたものを後期モダン・イタリアンとして分類し解説します。具体的には以下に該当するマスター・メーカーによる作品をここでの定義とします。(前期モダン・イタリアン

  1. 国籍または主な修行地がイタリアである
  2. 戦前に生まれ既に鬼籍に入っている
  3. 製作活動を行った時期に20世紀を含む
  • ジョヴァンニ・フランチェスコ・プレッセンダ(またはプレセンダ, Giovanni Francesco Pressenda, 1777-1854)以降を弦楽器に於けるモダン期と考え、その中でも後半のおよそ100年程度をここでは後期モダン・イタリアンとして区別することとします。
  • 一般にモダン・イタリアンと呼ばれる楽器は、主にここで解説する後期モダン・イタリアンに該当する製作者を指す場合も多いです。どの範囲をモダンと呼ぶかの明確な定義はありません。
もくじ

20世紀モダン・イタリアンの歴史

Giuseppe Pedrazzini
Giuseppe Pedrazzini
Milano, 1924
ペドラッツィーニ(ペドラツィーニ)特有のパターン、師匠ロメオ・アントニアッツィの影響が現れているエッジやスクロールの仕上げ方など、いずれも典型的。これ以上ない保存状態で、この製作者の何たるかを知ることにも適した貴重な一挺。
Annibale Fagnola
Annibale Fagnola
Torino, 1924
深紅のニスが印象的なファニョーラ。この手のニスはトリノ・スクールによく見られ、この製作者も割とよく用いた。御多分に漏れず、本人のラベルの下に、1827年のプレッセンダの複製ラベルが貼られている。
Giuseppe Fiorini
Giuseppe Fiorini
Zürich, 1923
どちらかと言えば男性的な作風の多いボローニャ・スクールのモダン・イタリアンの中で、フィオリーニは洗練された美しい作品を製作した。イタリア国外を含めボローニャ以外でも製作を行ったが、ボローニャ・スクールを代表する製作者とされる。

前期モダン・イタリアンにはオールド・イタリアン(イタリアのオールド・ヴァイオリン)の延長線上にある個性重視の製作者(またはメーカー)と、後期モダン・イタリアンの先駆けとなる実用性重視の製作者が混在していました。20世紀前後の後期モダンの時代になると、個性重視の製作者は殆ど姿を消し、実用性重視の製作者が大勢を占めるようになりました。なお、実用性重視とは言っても、あくまで実用性の高いオーソドックスな設計が基本にあるという意味で、その上でそれぞれの製作者の個性は強く出ています。オールド時代が終焉し、先細りとなっていたイタリアのヴァイオリン製作が、再び黄金期とも言える輝きを見せるのもこの後期モダンの時代です。

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20世紀モダン・イタリアンの代表的なスクール

後期モダン・イタリアンの核となる代表的なマスター・メーカーとそのスクールは、ステファノ・スカランペッラ(またはスカランペラ, Stefano Scarampella, 1843-1924)を代表とする マントヴァ・スクール(Mantova)、レアンドロ・ビジャッキ(またはビジャック, Leandro Bisiach, 1864-1945)およびそれに協力した多数のマスター・メーカー達によって大成功を収めた ミラノ・スクール(Milano)、アンニーバレ・ファニョーラ(またはファニオラ, Annibale Fagnola, 1866-1939)を代表とする トリノ・スクール(Torino)、アウグスト・ポッラストリ(またはポラストリ, Augusto Pollastri, 1877-1927)を代表とする ボローニャ・スクール(Bologna)などが挙げられます。この時代になると、もはやギルドは完全に消滅し、かつてとはスクールの意味合いが異なると考えた方が良いかもしれませんが、やはり作風の共通性は読み取ることができます。

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20世紀モダン・イタリアンの特徴と選び方

後期モダン・イタリアン全般の典型的な特徴としては、音量と表現力に優れていること、つまり実用性が高いことが挙げられます。コンサート・ホールの隅々まで浸透する音量と、高度な音楽表現の欲求に確実に応えるポテンシャルが、支持を受ける理由に他なりません。

この一端を示す事実として、後期モダン・イタリアンは20世紀の名演奏家達から製作注文を受け、愛用され、あるいはレコーディングに使用されていました。ファニョーラのヴァイオリンはアルテュール・グリュミオー(Arthur Grumiaux, 1921-1986)によって、マルコ・ドブレソヴィッチ(Marco Dobretsovitch, 1891-1957)のヴァイオリンはヤン・クーベリック(Jan Kubelík, 1880-1940)、ブロニスラフ・フーベルマン(Bronisław Huberman, 1882-1947)、ヤッシャ・ハイフェッツ(Jascha Heifetz, 1901-1987)によって、マリノ・カピッキオーニ(またはカピキオーニ, Marino Capicchioni, 1895-1977)のヴァイオリンはダヴィッド・オイストラフ(David Oistrakh, 1908-1974)、ユーディ・メニューイン(Yehudi Menuhin, 1916-1999)によって愛用されていたことは、そのほんの一例です。彼らは例外なく名器の頂点にあるアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)やバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ‘デル・ジェズ’(またはガルネリ, Bartolomeo Giuseppe Guarneri 'del Gesù', 1698-1744)も所有していましたから、それらと持ち替えても違和感なく演奏を行える性能が評価されたとも言えるでしょう。

後期モダン・イタリアンの選び方を考える上で重要な点は、後期モダン・イタリアンであればある一面でストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェズの代替たり得ても、後期モダン・イタリアンと同価格帯のオールド・ヴァイオリンではその代替たり得ない可能性があるという点です。ストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェズの性能の本質は、音色の古さではなく音量と表現力であり、音色の古さはそれらを相乗的に高めるものなのです。この点を踏まえ、後期モダン・イタリアンの強みを意識した選び方をされるのがお薦めです。もちろん、真贋、健康状態、販売価格相場を吟味することも重要です。

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20世紀モダン・イタリアンの販売価格相場

後期モダン・イタリアンの販売価格相場は2018年現在300〜1800万円前後であり、製作者の力量・人気により、相場は異なります。特に評価が高いのはスカランペッラファニョーラなど、代表的なスクールの筆頭クラスの製作者で900〜1800万円前後、これらのスクールの中堅クラスの製作者が600〜1200万円前後、それ以外の製作者や年代の新しい楽器などは300〜600万円前後が目安です。

なお後期モダン・イタリアンは、トレンドによって人気化した製作者の販売価格相場が上昇することもあります。例えば、1970年代頃から30年以上に亘りファニョーラの販売価格相場は目立つ上昇トレンドを継続しています。現在も上昇トレンド傾向を見せている製作者が色々とおりますが、そのトレンドが国際的なのかどうか、持続性があるのかどうかの見極めが重要です。是非エキスパートの知見をご活用ください。

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