ヴァイオリン製作の始祖であるアンドレア・アマティ(Andrea Amati, 1505-1578)に始まり、 ロレンツォ・ストリオーニ(Lorenzo Storioni, 1751-1802)と ジョヴァンニ・バティスタ・チェルーティ(Giovanni Battista Ceruti, 1755-1817)の世代で一旦幕を閉じる、18世紀末頃までにイタリアで製作されたオールド・ヴァイオリン※(およびヴィオラ、チェロ、いわゆるオールド・イタリアン)について以下に解説します。
前述の通り、アンドレア・アマティはヴァイオリン製作そのものの歴史を切り開きました。そしてその孫ニコロ・アマティ(Nicolò Amati, 1596-1684)が、グァルネリ・ファミリー※(またはガルネリ, Guarneri)の始祖 アンドレア・グァルネリ(Andrea Guarneri, 1626-1698)やアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)を始めとして、素晴らしいマスター・メーカー※達を多数育てたことにより、 クレモナ(Cremona)におけるヴァイオリン製作は空前絶後の黄金期を迎えます。その後、各ファミリーや弟子達は独立して各地に移住し、それぞれの地にクレモナの製作技法を伝えます。やがて、地方ごとにスクール※ が形成され、イタリアのオールド・ヴァイオリンの多様性を彩るようになったのです。
ページの先頭に戻るこの時代の代表的なスクールは、アマティやストラディヴァリを筆頭とする、芸術品のような美しさが特徴のクレモナ・スクール、ヴァイオリンのもうひとつの起源を担ったガスパロ・ベルトロッティ‘ダ・サロ’(Gasparo Bertolotti 'da Salò', 1542-1609)を筆頭とする、道具としてのこだわりが特徴のブレシア・スクール(Brescia)、グランチーノ・ファミリー(Grancino)とテスト―レ・ファミリー(Testore)を中心とする、音量面での実用性の高さが特徴のミラノ・スクール(Milano)、ガリアーノ・ファミリー(Gagliano)を中心とする、こちらも実用性が特徴のナポリ・スクール(Napoli)、サント・セラフィン(Santo Seraphin, 1650-1728)、マッテオ・ゴッフリラー(またはゴフリラー, Matteo Goffriller, 1670-1742)、ドメニコ・モンタニャーナ(またはモンタニアーナ, Domenico Montagnana, 1683-1760)というチェロの名工達が揃い踏みするヴェネツィア・スクール(Venezia)、マントヴァのピエトロ・グァルネリ(Pietro Guarneri, 1655-1720)を筆頭とする マントヴァ・スクール(Mantova)などが挙げられます。
ページの先頭に戻るイタリアのオールド・ヴァイオリンの魅力は、その素晴らしい音色に尽きます。この時代のマスター・メーカー達にとっての基準は、アマティおよびストラディヴァリという完成し尽した楽器でしたから、製作者(またはメーカー)自身の審美眼も自ずと厳しくなり、他と一線を画す質の高い音色はもちろん、外観も美しく製作されました。古さだけが価値を高めている訳ではないので、その他の名もなきただの古い楽器とは根本的な違いがあります。最良の楽器を求めると、誰もがほぼ例外なくオールド・イタリアンに行き着くことは、どうあっても否定できません。
ページの先頭に戻る業界に伝わる、演奏家のためのオールド・イタリアンの選び方のセオリーがあります。それは「アントニオ・ストラディヴァリが買えない時はジョヴァンニ・バティスタ・グァダニーニ(またはガダニーニ, Giovanni Battista Guadagnini, 1711-1786)を買うと良い、それが買えない時はニコロ・ガリアーノ(Nicolò Gagliano, c.1710-c.1780)を買うと良い。バルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ‘デル・ジェズ’(Bartolomeo Giuseppe Guarneri 'del Gesù', 1698-1744)が買えない時はロレンツォ・ストリオーニを買うと良い、それが買えない時はカルロ・ジュゼッペ・テスト―レ(Carlo Giuseppe Testore, c.1660-1716)を買うと良い。」というものです。これはそれぞれの製作者の特徴と販売価格相場のヒエラルキーを大雑把に表現したものと言えるでしょう。
ページの先頭に戻るイタリアのオールド・ヴァイオリンの販売価格相場は、2018年現在1000万円〜です。クレモナ・スクールが全体的に高価で、ストラディヴァリ・ファミリーとグァルネリ・デル・ジェズを除けば、ニコロ・アマティの弟子世代までが3000万円〜1億円前後、ニコロ・アマティ―の孫弟子世代以降およびクレモナ以外のスクールは1000〜5000万円前後が一応の目安です。ただし例外として、カルロ・ベルゴンツィ(Carlo Bergonzi, 1683-1747)や ジョヴァンニ・バティスタ・グァダニーニなど、音量のある製作者の作品は特に高価で、近年ではオークションを通じた取り引きでさえ、1億円を超える場合があります。
そして皆様ご存知の通り、アントニオ・ストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェズ、チェロの場合は加えてセラフィン、ゴッフリラー、モンタニャーナは特別で、余程の問題がある個体を除けば販売価格相場は最低で億単位からの取り引きとなります。これに限らず良質なオールド・イタリアンについては、市場に出回ることが少なくなる一方であり、売り手市場の傾向を強めています。