イタリアの前期モダン・ヴァイオリン - 解説と値段(価格相場)

Vincenzo Postiglione
Napoli, 1874
ナポリ・スクールにおいては実はやや異色のメーカーで、ガリアーノ・コピーの名手であった一方で、クレモナ・スクールの名器にも傾倒し、それらのモデルも製作した。こちらはアンドレア・グァルネリ(ガルネリ)の影響が感じられるヴィオラの傑作。
Giuseppe Antonio Rocca
Torino, 1840
現在の研究では、ロッカは1838年にメーカーとして独立したと考えられている。初期にはプレッセンダ(プレセンダ)・モデルが多く、この楽器も典型的な初期の傑作である。前述のファニョーラ(ファニオラ)のパターンと比較すると面白い。

イタリアのモダン・ヴァイオリンの歴史はジョヴァンニ・フランチェスコ・プレッセンダ(プレセンダ, Giovanni Francesco Pressenda, 1777-1854)によって幕を開けます。モダン時代にイタリアで製作されたマスター・ヴァイオリン(およびヴィオラ、チェロ)を慣習的にモダン・イタリアン(またはモダン・イタリー等)と呼びますが、ここでは特にプレッセンダ以降から19世紀末頃までにイタリアで製作されたマスター・ヴァイオリンを前期モダン・イタリアンとして分類し解説します。(後期モダン・イタリアン

  • 歴史学上のモダン(近代)の区切りは18世紀末〜19世紀初頭頃と考えるのが一般的ですが、ここで弦楽器に於けるモダン期もほぼ同時期を指すこととし、さらに製作スタイルの多様性が概ね集約されるまでの時期を前期モダン・イタリアンとして区別することとします。
  • ここで前期モダン・イタリアンと分類している楽器を、オールド・イタリアンやセミ・オールド・イタリアンと呼ぶ場合も少なくありません。いずれも慣習的なもので、明確な定義はありません。

この時代におけるプレッセンダに代表されるトリノ・スクール(Torino)の楽器は、アントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)以来と言えるほどの高い実用性を実現した点において、特筆すべき存在です。クレモナ(Cremona)黄金期の頂点を担ったストラディヴァリとバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ(ガルネリ・デル・ジェズ, Bartolomeo Giuseppe Guarneri 'del Gesù', 1698-1744)以降のマスター・メーカー達は、各々が最良と信じる製作スタイルを貫きましたが、総合的な実力でこの2大名器を凌駕することは叶いませんでした。これに対しプレッセンダは、2大名器の実力を再び見直し、それに負けない美しい音色と力強い音量をバランス良く発揮させる製作スタイルを確立しました。このことから、いずれ寿命を迎え失われていくであろうオールド・ヴァイオリン(オールド・イタリアン)に代わり、次世代の最高の名器の座に就くのはプレッセンダであろうと言われています。同様の思想は ジュゼッペ・アントニオ・ロッカ (Giuseppe Antonio Rocca, 1807-1865)など、これに続くマスター・メーカー達に引き継がれ、後期モダン・イタリアンへと繋がる源流のひとつになります。

  • トリノは地理的にイタリアとフランスの交易の中継点となる地域です。この頃フランスでは、ストラディヴァリを中心とするクレモナ黄金期の名器を高く評価する、今日に繋がる価値観が支配的となり、イタリアからそれらの名器が大量に持ち込まれました。当時のトリノのメーカー達は、こうした時代の流れを察知できる環境に恵まれていたという背景があります。

その他の代表的なスクールとしては、エンリコ・チェルーティ(Enrico Ceruti, 1808-1883)からガエタノ・アントニアッツィ(Gaetano Antoniazzi, 1825-1897)へと繋がり、その後のミラノ(Milano)での隆盛の原点となった クレモナ・スクール、ガリアーノ・ファミリー(Gagliano)の子孫やロレンツォ・ヴェンタパーネ(Lorenzo Ventapane, w.1790-1843)らによる ナポリ・スクール(Napoli)、ラッファエレ・フィオリーニ(Raffaele Fiorini, 1828-1898)が再興の祖となった ボローニャ・スクール(Bologna)などがあります。 なおトリノでは、アントニオ・グァダニーニ(ガダニーニ, Antonio Guadagnini, 1831-1881)やフランチェスコ・グァダニーニ(Francesco Guadagnini, 1863-1948)など、グァダニーニ・ファミリーの子孫も製作を行っていました。

この時代には、オールド・イタリアンの延長としての性格が強い楽器と、後期モダン・イタリアンの先駆けとしての性格が強い楽器が混在するのが特徴と言えます。前者は、メーカーの個性が存分に発揮された楽器で、メーカー独特の音色を追い求めて製作されています。ナポリ・スクールはその典型と言えるでしょう。後者の典型はトリノ・スクールやボローニャ・スクールで、バランス重視で実用性に軸足を置いているのが特徴です。特にトリノ・スクールの楽器は、上質な音色でソロ用途にも申し分ない音量を備えているため、ソリストを含む多くのプロフェッショナル演奏家が、メインの楽器として使用するケースも多いです。

前期モダン・イタリアンの中心的な価格帯は、2008年現在600〜4500万円前後です。中でも特に プレッセンダロッカ を中心とする トリノ・スクールの作品は特に高く評価されています。

ページの先頭に戻る